2012年1月21日土曜日

叡智の禁書図書館<情報と書評>

中世ヨーロッパの都市と書かれていますが、著者がドイツの人の為、かなりの部分ドイツに偏り、ドイツ中心の話になっています。結果として、ドイツ都市の具体的な説明が他の地域より格段に詳しいです。

逆に言うと、今まで中世というとフランスしかイメージ出来ていなかった私としては、中世ドイツへの関心を改めて抱く契機になりました。ハンザ同盟とか、名称やおおまかな内容は知っていてもその実体は、全く知れなかったので、大変勉強になりました!

従来の領主権力から、都市が自立的な地位・権力を獲得する過程は概して一様ではなく、各都市毎に経緯やその自立程度は、全くの個別であったこと。

皇帝権力や教皇権など、「虎の威を借る狐」よろしく、その時々に適宜使い分け、外交手腕を駆使する� �とで着実に上層市民勢力が担う市政の勢力を拡大する流れは、非常に感慨深いものがあります。

「ハーメルンの笛吹き男」のように東方植民が行われていく、まさにその時代背景など実に深く納得させられます。

進取の気性で貿易に着手し、着実にその勢力を伸ばしていった新興商人層がやがて富の蓄積と共に、保守化・貴族化し、各都市で市民上層部として門閥化し、自らは商売に手を染めることなく、単に寄生する存在になっていく過程は、ある種の典型的な歴史的推移を再確認させられます。

豪華な市庁舎や公共の建築物などが都市に建てられてくるのは、貿易の盛期を過ぎた後、蓄積した富を浪費する時期に一致するのは、どこの世界もどの時代も一緒なんだあ〜と思いました。

固定化した市民上層部 が門閥化し、やがてそれらの都市の役人は、法律学を修めた者が増え始める。いささか強引な比較かもしれませんが、新興ベンチャー企業が成功し、大企業になり、年数を経ると官僚組織化が進み、社内規則や社内政治力学に強い人間ばかりが幅をきかすようになる。なんか似たモノを感じてなりません。

たいてい、そんな風になってきたら、後は衰退する一方なんだけどね。

事実、上記のような都市達は、やがて自主的な権限を剥奪され、封建領主に屈服させられ、その後、国家による中央集権へと向かっていくのですが・・・・。

そうそう、都市内部においても当初は、自らの都市以外の外国商人を進んで招き入れ、貿易を盛んにすることで情報と文物の流通が進み、人や経済が集中し、発展したいったのですが、やが� ��保守化した人達は既得権益を守る為、保守主義的な政策を取り、職業に従事する人数を制限したり、外国商人の商売を制限することでやがて、経済的に衰退していくのも今の世界経済と相違無い感じです。

未だにTPPとかで騒いでいるのも、当時の没落する都市の既得権益層と変わらないものなあ〜。

人は歴史から何も学ばない、というのも真理ですかねぇ〜?悲しいことに。

あと、そういえば本書を読んでいて認識を新たにしたこととして、フランスの国王による重商政策ですが、外国製品の輸入を阻止する一方で、手織物業を一から興し、手厚く保護を与え、国内産業の育成の為に尽力して成果を挙げていたことを知りました。

昔、世界史の教科書で読んだ以来、すっかり記憶からは抜け落ちていましたが、そうい� ��た経済政策を協力に推し進めていった国王達が、テンプル騎士団への襲撃へと繋がっていくのは、なるほど納得です。

テンプル騎士団の封建領主的な地位と経済力、宗教的な独特な立ち位置。中央集権化を進め、都市を従え、諸侯を従え、宗教的権威さえも自らの権力下に組み込もうとした際、暴挙ともいうべき行為もやる方には合理的な理由があったことを痛感しました!

国王権力側からは相容れない存在だもんね。ふむふむ。

それ以外にも、都市におけるユダヤ教徒への取り扱いの推移。
当初は、経済・商売の活性化の為に進んで利用するものの、都市の富裕層になっていく過程で民衆の不満のはけ口として目の敵にされ、宗教的な地位以上にその富故に貶められていく変化も興味深いです。

まあ、日本でも徳政令や打ち壊しで、金持ちが狙われた現象が、ヨーロッパでは宗教的なものと一緒くたになって、ユダヤ人への理不尽な行為へ繋がっていく姿が説明されています。

本書は、散文的な記述で決して面白、おかしくドンドン読めるような内容ではないですが、自らが問題意識を持って読むならば、得るものがある本だと思います。

読んでる最中に、いろいろと他の本で読んだ内容と呼応し、ふとそういうことだったのかと気付かされることが多かったです。

中世の都市、ドイツの都市、という点で� ��関心のある方には価値があると思われます。でも、一般向けでは、眠たくなる本かもしれませんね。実際、興味ない箇所は私も眠くなりました(笑)。

【目次】
第1章 新文化勢力の台頭
第2章 東部ヨーロッパへの進出
第3章 都市と国家
第4章 帝国と国民諸国家の狭間
第5章 リューベックとニュルンベルク
第6章 都市の住民
第7章 都市門閥と手工業者
第8章 市政の展開
第9章 結末
中世ヨーロッパ都市と市民文化(amazonリンク)

ブログ内関連記事
「中世ヨーロッパの都市の生活」ジョゼフ・ギース、フランシス・ギース 講談社
「ハーメルンの笛吹き男」阿部 謹也 筑摩書房
「法廷士グラウベン」彩穂 ひかる 講談社
「フランスの中世社会」渡辺節夫 吉川弘文館

Related Posts



0 コメント:

コメントを投稿