私は送ることができる無料の友人のカード
連載 その67 設問の解答は問題文の中にあることがある
この設問をWeb上に掲載upしたのが4月19日でした。
また一方、ネット配信サービスのソニー家庭用ゲーム機「プレイステーション」関係で、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)およびソニー・オンラインエンタテインメント(SOE)がハッカーの侵入に遭い、その利用者の氏名、住所、電子メールアドレス、生年月日、ユーザーネーム、パスワード、ログイン履歴など諸々、約1億人の個人情報が流出したおそれがあることから、ソニーはその利用者へ最大100万ドル(約8千万円)補償をすると発表しました。
そのSOEへのハッカー侵入は4月16〜17日、SCEへの侵入は4月17〜19日とわかったそうです。この世界最大級の個人情報流出は、ちょうどこの設問67がWebに載るころに進んでいたことになります。
今日の日常情報通信において最も複雑で難解な暗号セキュリティを使っているのは、国の外交さらにまた金融界だと思われますが、この事件は一般の会社でそれほど厳格なセキュリティコードを使っていないことを思い浮かばせるような出来事でした。
被害のおよぶ範囲が1億人も!となるとやはりもっと難解で複雑な暗号システムの導入を考えておかなければならなかったことがわかります。
しかしハッカーたちもさるもの。コンピューターシステムに関して彼らは最高の頭脳を持っている輩ぞろいで、時間をかければ暗号を解いてしまうのが常です。やはりタイミングを見て暗号セキュリティシステムを更新していく必要があるということです。
近代的な暗号が使われ始めたのは第二次世界大戦ですが、やはり時間とともに解読されています。ちょうどいい機会なので、設問の解説に入る前にその戦略部分でおそらく皆さんが興味を引かれると思われる事例を2つほど紹介します。
事例1 エニグマ(Enigma)
第二次世界大戦でドイツは、「謎」という意味の暗号作成・解読機「エニグマ」を持っていて、たとえこの本体が敵側(連合国側)の手に渡っても、その暗号解読は不可能とまで言われていたほどの優れものでした。
1942年、ドイツのロンメル将軍率いるアフリカ軍団に、食料や弾薬を補給するための輸送船団がドイツ同盟国であるイタリヤの港からアフリカに向かう折、ドイツ本国がロンメルとの間で交わしていたエニグマ無線通信を傍受した英国はただちにそれを解読し、その途中で船団を待ち伏せて撃沈してしまいます。
そしてエニグマの解読成功をドイツ軍に絶対に知られたくなかった英国は、このときナポリ積荷港の架空労働者にその功績を讃えて報酬を値上げする旨の電報を打ち、あたかもスパイ活動によって船団の所在を知ったかのように装ったのです。この電報は、当然ドイツ側にも傍受されましたが、そのためドイツはエニグマが見破られていることを知らないままに終わったのです。
このことがさらに次のような最大の戦果を挙げることにつながりました。開戦当時ドイツはUボートという高速潜水艦を多数大西洋に出動させ、米国から英国へ向かう物資輸送船団を片端から沈めていました。しかし1943年になると、エニグマの解読に成功していた英国がUボートの正確な現在位置を割り出し、逆にUボートを次々と沈めるようになって、遂にドイツは大西洋からすべてのUボートを引き上げるに至ったのです。この時もドイツは英国のレーダーの性能が良くなったためと考え、エニグマが破られているとは考えなかったのです。
quinceaneroの招待状に書くべきかそしてドイツ空軍大編隊による英国地方都市・コベントリーの無差別空襲計画を、事前のエニグマ解読で知ったチャーチル英首相は、全市民を避難させた上で最低限の損害で済むよう準備したのち、あたかも不意を突かれように装い、敢えてドイツ軍の空襲をそのまま甘受したそうです。あくまでエニグマ解読の秘密を最後まで守るためでした。こうして最終的に勝利するわけですが、エニグマ解読の事実が公表されたのは、戦後も30年近く経ってからのことでした。
事例2 ミッドウェイ海戦
太平洋戦争の決着分岐点となったのがミッドウェイ海戦でした。普段よりも急に増加した日本軍の無線通信量に、何かあると気づいた米軍の暗号解読者は、その暗号文の中に頻繁にでてくる 「AF」 と云う地点が、日本軍の攻撃目標らしいと知りました。しかし「AF」 とはどこなのか判らなかったハワイの情報担当官は、「AF」がミッドウェイではないかと一応は考えたものの、アリューシャンか、あるいは南太平洋かもしれないと確信を持てなかったため、一つのトリックを仕掛けることにしたのです。
それは日本軍に傍受される恐れのない海底ケーブル通信を使って、「ミッドウェーの真水蒸留装置が故障した」 とミッドウェイにいる司令官に平文の無線電報を発信してくれるよう依頼したのです、と同時に、自陣の全局へ一斉に傍受体制に入るよう指示。 早速、東京の軍令部が 「AF では真水が不足している」 と関係先に暗号電報を発信する反応があったのです。オーストラリアの通信所がこれを傍受、AF はミッドウェーであるといことが、こうしてわかってしまったということです。
どのような約束リングは意味 その直後、この事実を「米海軍は日本軍の攻撃を事前に察知」 と云う見出しで、米国の新聞が一面トップに掲載し、またラジオのニュースも二度にわたってその事を放送したにもかかわらず、日本はそれすらも知ることもなく、したがって暗号を変更しようともしなかったようで、このことが、戦局の行方を決定的にしまったわけです。
昭和18年4月、前線兵士激励のためにソロモン群島のラバウル基地を出発した山本五十六司令長官機が、途中、待ち伏せしていた米軍機に撃墜されてしまいました。これも長官の旅程を手配するための日本軍が発する暗号入り無線電信を米軍側で直ちに解読し、長官の詳細な行動予定すべてが米軍の把握するところとなり、待ち伏せ攻撃にあったのです。軍最高の指令長官を失った日本軍の行く末は、もはや決まったわけです。
これら2つの戦時事例でもよくわかる通り、相手を欺く英米の「おとり情報」作戦が功を奏していたわけですが、それ以上に、暗号は定期的に更新しないと、まったくその意味が失われ、かえって墓穴を掘ることを示唆するよい例であることがわかります。
ところで個人の自宅で暗号などを使えば、たちどころにその居場所を突き止められてしまうことから、インターネットもあるいは電話すらも利用していなかったビンラディンは、それに代わるものとして信頼の置ける側近一人を連絡役にして一緒に住んでいました。
この側近男の存在を4年前につかんだ米情報当局者は、以来ずっと追跡を続け、この男が古くからの友人との電話会話の中で "以前一緒だった人たちとまた一緒だ"と話しているのを傍受。これで米側はこの連絡役がビンラディンのそばで働いていると確信し、他の情報とつなぎ合わせて隠れ家を突き止めたわけですが、暗号が使えない立場というものもまた特定につながる妙と言えます。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、それでは当設問の解説に入ります。
「当然、友人は読むことができません」と設問にある通り、友人は暗号解読の能力を持つ特別なハッカーなどではありません。したがって、暗号を解いて内容を理解するスベをまったく知らない人間です。
さらに「暗号のカギを知っているのは自分だけ」とあるように、送り主しか絶対にその暗号を解けない状況が設定されています。そんな中でこの友人がどうやってその内容を理解できるのでしょうか。
しかし正解へのキーポイントは、実はこの「送り主しか絶対にその暗号を解けない」というところなのです。
なぜか。それはメールを受け取った友人の反応でわかるということです。
どういうことかと言いますと、まずは初めて暗号入りのメールを受け取った友人の場合を考えてみてください。何か意味の通じないわけのわからないメールをもらったら、必ずその送り主に読めないというその旨の返信をするはずです。ましてや友人のあなたからのメールだったらなおさらです。秘密のメールを送るほどですから、よほど親しい間柄の友人であるはずです。したがって、もしも返信がこないようだったら、友人をやめたほうがいいということです。
そこで返信をもらったら、あなたは友人に、「それには私の暗号が入っているので、その私のメールに君の暗号を盛り込んだものを送り返してほしい。そのあとで君の暗号はそのままに残して私の暗号をはずしたものを送る」旨のメールを打ち返すのです。
そこで先に送ったあなたのメールに、友人の暗号の入ったものが返ってきたら、その中のあなたの暗号をはずし、再度、友人に送り返せば、今度はその友人が自分で盛り込んだ暗号しか入っていないそのメールを、自分で解いて読むことができるということです。
もちろんこれは最初だけで、2回目の以降にあなたが友人に送る暗号入りのメールは、友人は了解済みとして友人の暗号入りメールを返してくるはずですから、同じ要領で進めるだけでいいわけです。
もしも友人が暗号作りのできないような人間だったら、でたらめな文章、あるいは漢字やアルファベットだけの文字列を随所に入れてもらうだけでも用が足りる旨伝えればよいと思います。もちろん友人自身の作る暗号ならそれにこしたことはないでしょう。
そして随所に友人の暗号が盛り込まれたメールをあなたが受け取ったら、今度は友人宛に先に送ったあなたの原文とそれとを照らし合わせれば、どこが友人の手の入ったところか簡単にわかりますから、そこだけ残したまま、自分の暗号をはずして送り返せばいいわけです。
この設問は単一的なものの見方をする人にはなかなか解けない問題であることから、その出題背景は、柔軟な考え方ができるかどうかを見ようとするものです。
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