2012年2月11日土曜日

Negative Heart: ”箱”を観に行く旅

"箱"を観に行く旅

最初にお知らせです。
来週から、めでたくアルバイトすることが決まりまして。約1ヶ月の短期間ではありますが、その間、記事の更新が滞ることが予想されます。可能なら土・日に更新したいと思っていますが、どうなるかわかりませぬ。ま、今だって、せいぜい週に1回ほどしか更新できてないような状態だから、大差ないか(苦笑)
あらかじめご了承くださいませ。

さて、本題。
アルバイトが始まる前に、行きたかった美術館が2ヶ所あった。
ひとつは横浜美術館で開催中の松井冬子展。だが、こちらは機会を逃したまま。ずっとずっと楽しみにしていた展覧会なので、会期中に絶対に行くぞ!
もうひとつが、DIC川村美術館。こちらは、ジョゼフ・コーネルの作品が所蔵されているということで、どうしても実物が観たいと思いまして。昨年『コーネルの箱』という本を読み(過去記事→偶然が必然に出会うところ)、コーネルの作品に魅力を感じて、それが日本のしかも千葉県佐倉市にある美術館に多く所蔵されていると知ったら、それは行くしかないでしょう。
自分でも絵を描く先輩に、この川村美術館のことを話してみると、ぜひ行ってみたいということで、いっしょに行くことに。
そして、昨日ようやく行ってきた!
DIC川村美術館(→HP)は、DIC株式会社(元 大日本インキ化学工業株式会社)が作った美術館で、レンブラントやルノワールなど巨匠の作品も多く所蔵していて、尚且つ現代美術の所蔵品もなかなかに立派。
京成&JR佐倉駅から無料送迎バスが出ていて、駅から20分ほどで美術館に到着。これはとてもありがたい。ただし、美術館内にレストランや茶室はあるものの少々割高。周りには食事をする場所もコンビニもないので、私たちは軽食&飲み物を持参した。

バスを降りて、まずここでチケットを購入。私は使用しなかったが、音声ガイドもあったし、それとは別にガイトツアーもあるようだった。入ってみると、すごくシンプルで説明が少ないので、それらを利用すればよかったかもとちょっと後悔。
美術館の敷地内に入って坂を下っていくと、トンネル状の構造をくぐり、視覚が狭められた所から一気に景色が広がって、眼下に白鳥が泳ぐ大きな池が見える。
まずは、美術館入り口前でフランク・ステラのバカデカい金属製のオブジェがお出迎え。
中に入ると、「これでやっていけるのか?」と思うほど人がいない。美術館全体で、客は10人もいなかったんじゃないかな。鑑賞するこちらとしては、思う存分ゆったりと鑑賞できるのだからよいのだけれど、折角のすばらしい美術館とコレクションが経営難で観られないなどとならないでほしいと祈るような気持ちになる。
まずはコレクション展示から。ピサロ、ルノワール、ボナール、マティス、ブラック、ピカソ、シャガールなど最初から飛ばしているわ(笑)そして、レンブラント!絵もすばらしいが、額がこれまたすごい。
ひとつの展示室では、日本画の大きな屏風3作品が三方の壁を占領。それが、加山又造、尾形光琳、横山大観。残った一方の壁には、鏑木清方の掛け軸が四幅。DICのコレクションの最初だったという長谷川等伯の『烏鷺図』が観られなかったのは、ちょっと残念。岡山県立美術館で開催中の『長谷川等伯と雪舟流』展に貸し出されているらしい。
お次は、ミロ、エルンスト、マグリット、デュビュッフェなど。ヴォルスという人を私は知らなかったけれど、この方の作品が多い。マグリット好きとしては、マグリットが2作品も観られたのが嬉しい。ミロの『日常の魔法』はとてもかわいらしい作品だったし、エルンストの『石化せる森』も印象的な作品だった。

そして、自分としてはメインの目的であるジョゼフ・コーネル作品。7つの作品が展示されていたが、箱型は3つだった。『鳥たちの天空航法』と『無題(星ホテル)』と『海ホテル(砂の泉)』。
特に、『鳥たちの天空航法』と対峙したときにはなんだか感動して涙が出そうになった。ただのガラクタを詰めただけの空間に、なぜに感動するのやら、自分でもナゾ。
箱というのは、額とはまた一味違って、「ある空間を閉じ込めている」感が強い。たとえば、写真をフレームで切り取ると、一気にドラマ性が増すということがあるでしょう?それがもっと強烈になった感覚が、箱にはある。
この中に詰まっている空気は、1961年のニューヨークの空気。気密性を考えたらそんなものとっくに抜けているだろうとか野暮なことは考えない。タイムカプセルとはまた違う。そのときに、コーネルが箱に詰めたものが、そのままそこにはあると感じられる。そこに感動したのだと思う。
この美術館には、今回見ることができなかった箱がまだ4つあるはずで、展示替えされたらまた観に行きたい。
ちなみに、1月中に終わってしまったのだが、千葉市美術館での『瀧口修造とマルセル・デュシャン』という展覧会の中で、ジョゼフ・コーネルの箱がいくつか展示されていたらしい。たまたま先輩が行っていて、教えてくれた。それは先輩によると、『無題(ラ・ベラ[パルミジャニーノ])』と『鳩小屋:アメリカーナ』だったらしいので、同じ千葉県内の美術館として川村美術館が貸し出していたということなのだろうと思う。こちらは、展示されていることを知ったときにはもう間に合わず、観に行けなかった。

それから、マーク・ロスコの赤の作品が並ぶロスコ・ルーム。
〈シーグラム壁画〉と呼ばれる作品群のうち7点が展示されている。どれも暗めの赤が基調となっているのだが、とにかくその赤の物量に圧倒される。現代美術に興味のない人から言わせれば、きっと、単に赤い色で塗られたバカデカいだけの代物だと思われるのだろう、あまりにシンプルな作品群。中にはオレンジ系の暖色が使われているものもあるのだけれども、主に使われている暗い赤は血の色を連想させたりもする。それなのに、どういうわけか嫌悪するような強い刺激ではなく、暖かな印象で観ているこちらの心を落ち着かせる。
ロスコ・ルームから階段を上がると、今度はバーネット・ニューマンの『アンナの光』の部屋がある。横幅が7mもあるかなり大きな作品で、両端の白い部分を除くほとんどが朱に近いような赤で塗られている。これが不思議で、観ていると、視点の部分が黄色っぽく明るく見え、周りが黒っぽく見えてくる。そのうちトランス状態のようになり、画面中央がこちらに膨らんでくるような錯覚を覚えるように迫ってくる。
後から調べてみると、タイトルの"アンナ"とは、ニューマンの母の名であるようだ。

そして、コレクションとは別の展示、『抽象と形態:何処までも顕れないもの』。
20世紀の名だたる芸術家たちの作品と、それらに影響されて、もしくは似た観点から描かれた現代の作品とを比較展示してあるものでした。
とはいえ、そこまで明確な共通点が見られるわけでもなかったのだが、ひとつだけ。モネの『睡蓮』と野沢二郎の作品とは、なんとなくつながりが見えた。展示の意図としては、"視点を上にもっていくような三角形の構図"が共通しているというようなことだったが、それよりも、対象を直接的に描かず色や光を使って描くような技法が共通していると思った。ぼんやりしているはずなのに、写真にも見えるような気がする野沢二郎さんの作品は、今回知った画家の中では一番好きな作品だった。

川村美術館は、建築物としてもなかなかにおもしろい。
ヨーロッパの田舎にある小さな城のような外観もなかなかにユニークだが、感心したのは内部のあらゆる構造だった。
展示室と展示室の間には、一息つく空間があったりして、そこで気持ちをリセットできる。展示室がそれぞれ個性的で、まったく窓のない閉じられた空間もあれば、思い切り外光を取り入れている空間もある。天井のかたちもさまざまで、床の材質もみんな違っていたし。
圧巻は、ロスコ・ルームからニューマン・ルームにかけてのつくり。まず、ロスコ・ルームは閉じられた空間に大きな赤い絵がたくさん飾られていて、床は暗い落ち着いた色のフローリング。しっとりと落ち着いた空間。そこから狭い階段を上がると、踊場からニューマンの明るい赤が見え始める。ニューマン・ルームは一変して壁一面に弧を描く横長の窓から思い切り外光が降り注ぐ空間で、床も壁も白一色。そして、ニューマン・ルームから戻ろうと振り返ると、踊場には床から天井まで続く縦長の装飾があり、荘厳な教会のようなイメージ。
この踊り場の装飾は左右の隙間から昼光色と白色が縦に交互に並ぶ照明で照らされていた。特に光の使い方は、各作品とのバランスについて細部にわたって考えられていた建築だったと思う。
どうやら、すべて「作品ありき」という観点から建築家さんが考えられた構造のよう。コレクションを動かす予定がないなら、こういう作り方もありなのだなと思った。

長々と書いてしまったな。
とにかく盛りだくさんで、本当は美術館の周りの自然散策路もお散歩したかったのだけれども、季節柄お花が咲いている様子もなく、もしかしたら菜の花くらいは咲いているかと思ったけれど、結局探せないままになってしまった。
もっと近かったら季節ごとに通うのに(苦笑)
美術館とコレクションの所蔵の存続を願うならば、もっと人に来てほしいと思う反面、あまり知られずにいつまでも静かに絵が鑑賞できる場所であってほしいとも思う。

しかし、佐倉は遠かった……

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うーん・・
立地条件が悪い美術館だったんですね
お宝が日の目を見ずに
保管だけされているのはモッタイナイです
かといって
仰せのとおり、人ごみの中で絵画は鑑賞したくないです

バイトは短期間のようですが
それなりに
お役目を果たしてきてくださいまし

アルバイトが決まりましたか、nbmさんの能力を生かせるところなのかな、、、そうだったら、おめでとうございます。

美術館に行って、作品はもちろんのこと、それ以外のこと、建築などをこうまで細かく観察、描写できるとは、さすがですね!
読んでいると本当に行きたくなってしまします、でも、佐倉は遠い、、、ですか。

横浜も、楽しみにしてらっしゃるのでしょうね。
また、記事にしてくださいね。私はそれを楽しみにしています。

プリュム 様

不便なところにありますが、駅から無料送迎バスもありますし
決して立地が悪いわけではないのですよ。
敷地は広大で、自然が豊か。
もっと気候のよい季節であれば長居したい場所でした。
こういった企業が経営しているような美術館は
企業の収入からお金が出るのか
閑散としていても、経営はわりと問題なかったりすることが多いみたいですが。
たくさんの芸術作品をゆっくり楽しめる贅沢な美術館でした。

アルバイトは、まずは社会復帰の肩慣らしといったところです。
これでなんとか実社会に出るきっかけになれば、と。
外で仕事をするのは10年ぶりなので、不安がいっぱいですが
なんとかがんばってきたいと思います!

葛の葉 様

アルバイト先は…そうですねぇ、果たして私の能力が生かせるでしょうか。
一応事務系ではあるのですが、実はまだ仕事の詳細がわかりません。
いずれにせよ、がんばってお仕事します!

美術なんて
特に現代美術は観る側の感性にゆだねられる部分が多いと思うので
感じ方は人それぞれだと思うのですが
自分はこんな風に感じたということをメモしておきたいと思いまして。

たとえば、東京駅からだと、エアポート成田で1時間ほどで佐倉に着きますね。
そこからバスで20分。送迎バスは1時間に1本ほどです。
私は佐倉まで合計で2時間以上かかりました(苦笑)
実はもう一ヶ所行きたい場所がありましたが、今回は断念しました。
佐倉順天堂という江戸時代末期のオランダ医学の資料館のような場所です。
次の機会には、ぜひここにも寄りたいと思っています。
葛の葉さんも機会がありましたら、ぜひどうぞ。
暖かくなると、敷地内には様々にお花が咲くみたいですよ。
スケッチしたくなるかもしれません。

横浜も、なんとか行きたいです。
本来はもっと前に行っているはずだったのですが、いろいろありまして。
行ってきたら、記事にしたいと思います。

佐倉はここ10年ほど毎年仕事で年に数回行ってます。我が家からだと1時間弱です。

美術館もさることながら、市の音楽ホールには、オランダから買ったストリート・オルガンが3台あって以前我がブログで紹介したことがあります。
実はこの音色が好きなんですよ。
いろいろと見所が多い町です。そう、順天堂発祥の地ですね。

お仕事がんばってください。

オスカーさん 様

佐倉は見所がたくさんありそうな所だと思うのですが
なかなかじっくり観てまわることができなくて、残念です。
文化的なことに力を入れているのですね。
また行く機会があったら、もう少し下調べをして行きたいと思います!

声援をありがとうございます。
がんばってきます!

短期とは言え、お仕事が見つかって本当に良かったですね。昨日もこちらへ伺ったのですが、相変わらずの長文読解力がなく、コメントは断念したのですが、今日は草人さんの明るいお知らせがあって、あなたと喜びを分かち合いたいと思ったのです。
ああ、ここにお出での方も全て草人さんとご親交のある方々のようですから、みなさんとも。ではまた。

花てぼ 様

同じ文面のコメントが2回入っておりましたので
勝手ながら、メールアドレスが入っていなかった方を削除させていただきました。

いつもながら、ダラダラと続く長文ですから、適当に読み飛ばしてください。
草人さんはリハビリに意欲的なようですね。本当に嬉しい限りです。
華さんのご報告には、目頭が熱くなりました。
草人さんのお帰りが待ち遠しいですね。

今、私は仕事の研修中で、心身共に疲れきっております(苦笑)
なにしろ10年ぶりの社会復帰ですから
私にとっては社会生活のリハビリ中なのです。
草人さんといっしょにがんばります!

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